失敗した夕焼けの写真を修整する
この写真は北海道の『上ノ国もんじゅ』にて今年の夏に撮影しました。日本海に沈む夕日とハマナスの赤い実が感動的でシャッターを押したのですが、どうも夕焼けがきれいに撮れていませんでした。
夕焼けっぽくならない最大の原因は、デジタルカメラの設定でホワイトバランスがオートになっているからです。フィルムカメラだとセットしてあるフィルムが普通のものであれば夕方には夕方らしく撮れたものですが、デジカメではオートを外してデイライト(昼光)モードにしておかないと夕焼けっぽくならないのです。
さらに露出の問題があります。まさに逆光の撮影となりますから、夕焼け空と近景の両方とも綺麗に撮影するのはけっこう難しいものです。たいがいは夕焼け空がきれいに写ると近景が暗くなってしまいます。ストロボを発光させたとしても、せいぜい十数メートル以内が対象となりますから夕日のあたっていない部分は真っ黒につぶれてしまう可能性があります。手前にある景色もきれいに撮影しようとすると、今度はどうしても夕焼けの色が浅く(白っぽく)なってしまうものです。
観光地や景勝地で綺麗な夕焼けを撮っても、夕焼け空ばかりがキレイで肝心の手前の景色が黒くつぶれていては、どこで撮った夕焼けの写真でもよくなってしまいます。手前の景色や家族や友人がきちっと写っている写真で、『夕焼けがいまひとつ記憶の夕焼けとは違う』ときのための修正方法を解説します。
今回は4つに分けて解説していますが、全ての項目を用いる必要はありません。夕焼けは空が多い場合と雲が多い場合がありますから、それぞれに応じた補正方法をメインにフォトレタッチすると良いでしょう。
●雲を夕焼けらしくする
●夕焼け雲のリアリティを増す
●空と海を夕焼けにする
●ドラマチックに夕やけを演出する
雲を夕焼けらしくする
まず簡単な方法で雲を夕焼けらしくフォトレタッチします。[矩形選択]ツールをクリックして、図のように水平線から上を領域選択します。このときもし水平線が傾いているような場合は「GIMPで画像の角度を変える」を参考にして水平に角度を調整してトリミングしておくと良いでしょう。水平線から空にかけて、岩や建物や山などが写っている場合にはパスを使って領域選択すると良いでしょう。レンズの歪によって水平線が丸く盛り上がっている場合も同様です。場合によっては「あいまい選択」ツールを使って効率よく領域選択できるかもしれません。パスによる領域選択の方法は「パスの基本操作について」を、その他領域選択に関しては、作例INDEXの「GIMPで画像を切り抜く(その1〜5)」を参考にしてください。
領域選択した空の雲を夕焼けっぽく色を修正します。[道具]タブをクリックして表示されるメニューから、[色ツール]の[カラーバランス]をクリックします。表示された[カラーバランス]ウィンドウで「調整する範囲の選択」で[ハイライト]を選択します。「選択した範囲のカラーラベルを調整する」では主に[シアン−赤]を右に[黄−青]を左に調整すると夕焼けっぽい雲になります。
サンプルに出力したのが右図です。もうこれで充分とう場合もあるでしょう。いや、もっと鮮やかな夕日にしたという方は次に進んでください。
夕焼け雲のリアリティを出す
夕日に映える雲は太陽に近づくほど鮮やかで明るいのでそれを再現します。
- まず「レイヤー」ウィンドウで、背景が透明の新規レイヤーをつくります。
- ツールパレットで「ブレンド」ツール(グラデーションを用いて塗りつぶす)をクリックしたら、すぐ下の小さなグラデーションの窓をクリックして、「グラデーション」ウィンドウを表示させます。
- 今回は在りモノのグラデーションを少し修正して使います。グラデーションリストの中から『Skyline Pullted』を選択して、
- [グラデーションの複製]ボタンをクリックします。
- 複製したグラデーションを編集するために[グラデーションの編集]ボタンをクリックして「グラデーション」ウィンドウを表示させます。
- グラデーションの左端の黒は要らないので「グラデーション」ウィンドウの一番左にある白の△マークを一番左まで移動(ドラッグ)します。
- 右側の黒は削除します。△マークのあたりにマウスポインタを置いて右クリックします。メニューが表示されるので、その中から[セグメントを削除]をクリックします。これでグラデーションの準備ができました。任意の名前を付けて保存できます。
水平線から上側を冒頭でやったように領域選択して、その部分にドラッグしてグラデーションを塗ります。ドラッグする距離により塗られるグラデーションの状態が変わるので、気に入るまで何回もやり直しましょう。濃紺の夕空を多めに入れるのであれば狭くドラッグして、燃えるような夕焼けにしたい場合は赤や黄色の部分が大きく範囲内にはいるようにドラッグします。場合によっては画像を小さく表示させて作業するとやりやすくなります。
このままでは全体的に鮮やかなままなので、太陽付近のみ鮮やかになるようにさらにグラデーションを重ねます。
- 今度は「グラデーション」ウィンドウで[新規グラデーション]ボタンをクリックして新しくグラデーションを作成します。表示された「グラデーションエディタ」ウィンドウのプレビュー部分で右クリックしてメニューを表示させます。
- [左終端色]をクリックして左端の色を決めます。下の?を参照ください。
- [右終端色]をクリックして右端の色を決めます。下の?を参照ください。
グラデーションを塗るとき、透明部分を保護するために矢印の[透明保護]部分にチェックを入れてください。こうすることで改めて領域選択しなくても透明な部分を損なうことなくグラデーションを塗ることができます。
(1)左側の色の設定
左側は夕日の色をそのまま出したい部分なので透明にします。カラーパレットで黒になる部分をクリックして[A]の値を0にします。0は透明になるということです。
(2)右側の色の設定
右側はグレーになるように適当にグレーの部分をクリックします。赤枠のあたりをクリックして[V]の値が50前後になるようにしました。
グラデーションの準備ができたら、画面上で図のように太陽のあるあたりから外側に向けてドラッグします。大きめにグラデーションを敷きたかったので、画像の表示倍率を下げて外側まドラッグしました。別枠に示した部分がその結果です。
上記で処理したレイヤーの「モード」をオーバーレイにして出力すると、右図のような画像になります。割と自然な感じに仕上がったと思います。いやいやもうちょっと夕焼けを強く印象付けたいと思う方は続きをどうぞ。
空と海を夕焼けにする
空の白い部分と海の白い部分も夕焼けの色を映えさせると、より一層夕焼けっぽくなります。そのためにレイヤーマスクを使って明るい空の部分や海の光っている部分を透過させます。
下準備として[背景]レイヤーをコピーして図のように前景の明るい部分をざっくり黒く塗りつぶします。前景が充分に暗い場合は必要ありません。この場合はハマナスの部分がストロボで明るいのでこのくらいまで黒く塗ります。塗る方法は何を使っても構いません。
この画像をモノクロに変換します。方法はいろいろありますが、今回は[フィルター]タブをクリックして表示されるメニューから[色]の[単色塗り]ツールを使います。表示された「単色塗り」ウィンドウで[白]を選んで[OK]をクリックします。モノクロにしたら、同じくメニューの[色]の[明度反転]をクリックして白黒を反転させます。
[道具]タブをクリックして表示されるメニューから「色」ツールの「明るさコントラスト」をクリックします。「明るさ−コントラスト」ウィンドウの[明るさ]と[コントラスト]の値を上げながら、空の部分が黒く、そして雲が消えて小さくならないように[明るさ]の値を上げていきます。より黒いほうが透けるのでなるべく真っ黒になるまで調整します。
もう一回[背景]レイヤーを複製して、そのレイヤーで右クリックして表示されるメニューで[レイヤーマスクの追加]をクリックします。「レイヤーマスクの初期化方法」で一番上を選んで[OK]ボタンをクリックします。
複製した[背景]レイヤーの右側に新たな窓(レイヤーマスク)が表示されます。ここにモノクロ反転した画像を貼り付けます。一度モノクロ反転させた[背景 コピー]レイヤーをクリックして、[全て]選択してコピー(Ctrlキー+Cキー)して、このレイヤーをのれイヤーマスクの窓をクリックして貼り付けます(Ctrlキー+Vキー)。図はレイヤーマスクに貼り付けた状態です。[背景]レイヤーを非表示にすると、透明度の高い場所ほどチェック模様がはっきりとわかります。
夕空のグラデーションを敷くためのレイヤーを新規作成します。場所はレイヤーマスクをつくったレイヤーの下に置きます。そのレイヤーに先ほど使ったグラデーション『Skyline Pullted』を選択して太陽のあるあたりを始点にドラッグして画面いっぱいにグラデーションを塗ります。最初に塗ったグラデーションと全く同じ場所、同じ大きさで塗る必要はありません。少しずれているくらいのほうが良い場合があります。右図はグラデーションを塗った状態です。
このままではどぎつくて使えませんので、空用のグラデーションのレイヤーを[不透明度]の設定で色を抑えます。元画像のによっては[背景]レイヤーとの間に、白のレイヤーを挟むと夕空の色が冴えることがあります。そとのき白のレイヤーの[不透明度]も調整すると良いでしょう。
夕焼けの空を設定したことで空のコントラストが弱まってしっくりした感じになります。そのおかげで近景のハマナスの実と夕焼けの赤味が呼応して写真に一体感が出てきます。また海にも少しだけですが夕焼けの色が映えているのでリアリティがでてきます。この設定は夕焼けのレイヤーのモードを[乗算]で[不透明度]を30に設定、その下の白のレイヤーを非表示にしたときの画像です。さらに劇的な夕焼けをお望みであれば次もどうぞ!
ドラマチックに夕やけを演出する
これを撮影したときには見えなかった太陽を入れてみます。太陽を円く明るく描くというわけではく、フレア(放射状に広がる光の輝き)を入れます、またフレアを入れることで夕焼け空と手前のハマナスの関係がより密になります。
まずフレアをきっちり描画するには、その画面を構成している透明や半透明になっているレイヤーをひとまとめにしなければなりません。なぜならフレアを描画するレイヤーが透過していたり、モードが[標準]以外だと、描画されたフレアが正常に見ることができないからです。何度も調整や失敗をしてもいいように、この段階で一度保存してから、別の名前を付けてもう一つファイルを作って、そちらで作業をすると良いでしょう。対象レイヤーをひとまとめにするには、レイヤーで右クリックすると表示されるメニューを使います。三つの方法があるのでケースバイケースで使用してください。
- [下のレイヤーと結合]…選択状態にあるレイヤーとその直下のレイヤーを結合します。
- [可視レイヤーの統合]…非表示レイヤーを除く、目のマークのついている表示レイヤーを結合します。
- [画像の統合]…レイヤー全てを結合します。非表示レイヤーも結合されて一枚のレイヤーになりますが、非表示なので画像に影響はでません。
この場合は[画像の統合]で一つにまとめました。
フレアの描画は[フィルタ]タブをクリックして表示されるメニューで[ライト効果]の[フレア効果]をクリックします。「フレア効果」ウィンドウで[プレビュー]にチェックをいれて太陽の場所をクリックします。プレビューを拡大表示できないので、位置を厳密に指定したい場合は、作業画面でマウスポインタを当てた場所がウィンドウ左下(赤枠)の部分に表示されますので、[フレア効果]ウィンドウの「フレア効果の中心」の[X]と[Y]にそれぞれ入力します。Xが左Yが右の数字です。場所が気に入らなくても何度もやり直しはできますが、大きな画像の場合は処理時間がかかるので、数値指定してしまったほうが速くて良いでしょう。
またこのフレアツールのほかに[GFlare]というツールもあります。細かい設定ができますし、もっと派手なフレアにしたい場合はお勧めです。
このフレアの色の白が妙に際立ってしまっているのと、前景の色合いが夕空のわりには青っぽいため全体的に暖色系になるように修整します。[道具]タブをクリックして表示されるメニューで[色ツール]の[カラーバランス]をクリックします。表示された「カラーバランス」ウィンドウで図のように設定します。お好みによって設定値を変えたり、「調整する範囲の選択」に[中間色]も加えても良いでしょう。この場合は控えめ(?)にしておきました。
カラーバランスで補正したものとそうでないものを比べてみるとよくわかりますが、フレアの色合いや葉っぱの見え方が夕暮れらしく感じられるようになります。このファイルを出力した画像が冒頭の比較画像となります。
最後に
今回は夕焼けの再現方法についてさまざまな種類があることを説明するために長くなったしまいました。見本画像も4つを組み合わせると最後にはコテコテになってしまった感も否めません(^^; しかし、ここまでできるんだと頭に入れておくと、『もう少しあの写真の夕焼けが綺麗だったら…』という写真を甦らせてあげることができるのではないでしょうか。あのときの感動をGIMPで取り戻してください。